「ったく、魔人には感情ってものがないのか」

ヤコが事務所に来るのがあまりにも遅いものだから罰として殴ったら
そう言われた。何を言っているんだろうこの奴隷は。今まで謎を食し
ている我輩の表情を何度も見てきただろう、何故分からない。魔人に
だって必要最低限の感情は持ち合わせているはずだ。

「この馬鹿め、あるに決まっているだろう。人間に比べて遥かに少な
いと思うがな、・・・少なくとも我輩は。人間のようにたくさんの感
情を持っていても謎を食するにおいてはまったく意味のないことだ」
「どうせ他人を嘲笑ったりするような悦びしかないんでしょ、」

このドS魔人が、と呟くヤコ。『えす』の意味は地上に来てからの知
識収集で知っていた。相手に苦痛を与えることによって快楽を得る、
ということらしい。そういえば、我輩は確かにそうかもしれない。普
段まったく意識はしていないが、ヤコから見ればそうなのだろうか。
人間にとってはかなり歪んだ悦びなのだろうか。・・・我輩にとって
この感情は純粋なものなのだろうか。
魔界にいたときはそんな悦びよりも、謎を探す好奇心・・・謎を食す
ために必要な感情ばかりだった。地上に降りてきて人間の悲しみや恐
れ、怒りなんて意味が分からなかったし、興味も無かった。『えす』
も。そんな感情はあるだけ邪魔だ、と思う。

今なら分かる。

「本当に邪魔だな、人間が必要とする感情は」

面倒で仕方ない。ヤコの首を絞めながら笑った。

貴様の所為で、一番無駄な感情をも抱いてしまった。





20070921 20080503加筆修正